顧客志向経営への近道は、顧客体験をあげるUXグロースハックにあり 株式会社ビービット取材【後編】

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金融機関において、顧客接点の創出が課題になるなか、中国では顧客から絶大な支持を得る金融企業、「平安保険グループ」が世界的に注目を集めています。彼らの凄さは、多くのユーザーを囲う優れたサービスの展開だけではなく、「平安保険が私の生活を支えてくれている」と顧客に言わせるほど、データを活用したCRMで顧客から絶大な支持を得ている事。

書籍『平安保険グループの衝撃』の翻訳を担当した、エクスペリエンスデザインカンパニーの株式会社ビービット、エグゼクティブマネージャ/エバンジェリストの宮坂 祐氏、同社東アジア営業責任者の藤井 保文氏に話を聞く本連載、前編では平安保険グループの成功要因について紹介いただきました。続く後編では、日本の金融企業が顧客志向の経営を実現する上でどのように取り組むべきかを解説いただきます。

 日本企業はグロースチームによるボトムアップからのトップダウンでKPIを変えるアプローチを

 

―日本でも、顧客志向のサービスを届けたいが、依然として獲得だけが指標の短期利益志向を脱却できないという企業は多いです。日本企業が顧客志向(CX)の経営に成功するには、何からはじめればいいのでしょうか?

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宮坂氏 :日本企業が平安保険のように、NPSを指標に顧客志向の経営にシフトするのは容易ではないと思います。中国はトップダウンの性質がありますが、日本はボトムアップ。成功するには、まずは顧客志向の小さいサービスで成功をある程度積み上げて、下におとす。ボトムアップからのトップダウンでKPIを変えていくしかないでしょう。

行動データを活用した顧客志向のビジネス化においては、①UXイノベーションと②UXグロースハックと二つ方向性があります。①UXイノベーションは、平安保険のグットドクターなどのアプリがこれに該当しますが、銀行や保険会社が新規サービスをデジタルで作ることを指します。多くの企業がやりたがるのはUXイノベーションですが、重要なのはどちらかというと②UXグロースハックUXグロースハックは、オンラインバンキングのアプリや、Webサイト、店舗、メール、コンテンツサイトなどの既存の顧客接点において、行動データを活用してお客様の体験を向上させること。銀行の例でいえば、ほとんどのユーザーが銀行アプリを残高照会にしか使っていない中で、いかにそれ以外の価値を顧客にもってもらうかを考えるほうが重要ではと提案しています。

藤井氏 :よくありがちなのが、ユーザーが残高照会だけで離脱してしまうために、残高照会の前に広告を挟んだりするアプローチなんですが、ユーザーからしてみれば、もともとアプリが使いにくい上に、残高照会までも阻害されるわけで、余計に嫌いになる(笑)。この例をとっても、既存のアプローチにおいて顧客志向で改善すべき点は多いわけです。顧客体験価値(CX)を高めるには、まずは既存サービスの体験(UX)を向上させるのが先決だと思います。

適切なタイミング、適切なコンテンツ、適切なコミュニケーションが大事。

―既存のサービスに対してUXグロースハックを成功させるために、企業が知っておくべきことがあれば教えてください。

 

藤井氏 :顧客体験を向上させる上で、属性データだけでなく行動データをどのように使うかというのが非常に重要なポイントです。行動データを活用する上では、Right Timing, Right Content, Right Communication、つまりタイミングもコンテンツもコミュニケーションも適切であることが大事かなと思います。そのためには、顧客の状態を適切に判断する上で行動データの質と量が必要になります。平安保険のグッドドクターでは、医療サービスの提供だけでなく、万歩計の機能がついており、歩いた歩数をアプリで使えるポイントに変換するシステムがあります。このポイント変換は、24時間以内に行う必要があり、ユーザーは必然的に毎日アプリを利用するわけです。また、このアプリを使っているユーザーに対し、健康や美容に関する情報を提供し、コンテンツの閲覧情報も取得しています。このように、顧客を解像度高く可視化するためには、頻度高く連続的にサービスを利用してもらう仕掛けや、見られるものが増える状態を設計すること、利用機会の拡大が鍵となります。

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もう一つ重要なのは、取得したデータを顧客の役に立つコンテンツに使うということです。例えば、スマホの位置情報を利用して、銀行に来店した顧客に対し広告を表示するといった使い方。これってちょっと気持ち悪いですよね。平安保険の例も、考えてみれば気持ち悪さとスレスレなわけですが、「グットドクター」は顧客のペインポイントをしっかりとらえた上で、困っているタイミングに限定し手を差し伸べているからこそ、ある種の感動体験になっている。平安保険は、信頼が高まっていれば、連絡が取りやすく商品が売りやすくなるという考えのもと、「客に信頼される状態」をどうつくるかという発想でデータを活用しているわけです。

 

―データを“顧客にとって役立つことに使う”というのが大事という事ですね

 

宮坂氏 :そうですね。人間関係でもそうじゃないですか。例えばプロポーズのプロセスって、何回かデートして好きになってもらい、TPOを考えてプロポーズする。段階とプロセスが大事なのは企業も人も一緒かなと思います。しかも、デジタルが普及したことにより、昔はデートでしか会えなかったのが、今はLINEでいつでも連絡がとれますよね。でもLINEでメッセージがしつこくきたり、連絡がくるタイミングがずれると嫌われる。メッセージの内容も、そんなに親しくもないのに親近感溢れるものがきたら気持ち悪いですよね(笑)。それと同じで、お客様の状態を鑑みた最適なコミュニケーションをする、そういうところにデータをうまく使うべきだと思います。

利益との相関性を証明するための、中間指標としてのNPSスコア

―顧客に信頼してもらう、好きになってもらうには時間もお金もかかります。ある程度中長期にわたる顧客志向の施策において、社内からサポートを得る上で、参考になる国内企業の事例はありますか?

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宮坂氏 :日本企業の場合、それ単体では収益化できない顧客志向事業の必要性を、社内にどう説得するかに苦労すると思います。そんな中、顧客ロイヤルティを数値化するNPS(ネットプロモータースコア)をLTV(顧客生涯価値)の中間指標としておき、収益への相関性の証明する企業が増えています。例えば、ある自動車保険会社の場合、NPSの点数と平均継続率の相関性を明確にしています。そのため、『中立者(NPSスコアが68)を推奨者(NPSスコアが910)にひきあげる施策に2億円かけ、中立者の10%が推奨者に置き換わった場合、10億円のリターンが見込める』といった試算説明が可能になっています。

実際に行っている施策としては、19歳以下で自動車保険に加入した顧客に対し、20歳になったタイミングで保険の切り替えの連絡をいれるというものです。自動車保険ではその事故率の高さから10代の保険料は高く、20歳で切り替えるほうがお得なんですが、これを顧客に教えるのって、企業としては難しい判断ですよね。短期利益で考えたらまずやらない。この企業は現在、エリア特定でこのアプローチを実施し、NPSの数値がどう変動するかを見ています。NPSが顧客志向の中長期施策の効果を占うことのできる先行指標として使われているというわけです。

 

藤井氏 :NPSは単体でみれば、ただの数字。その数字とLTVの相関性を明確にし、NPSスコアを高めることで収益ポテンシャルが見込めるかを証明すると、事業に対する意思決定がしやすいと言えるでしょう。組織全体においては、小さい成功も利益との関連性を証明することが大事かなと。単体でみたら赤字でも、全体に拡張すると20億儲かるポテンシャルがある、といった将来への道筋を、納得感がある形で証明していく必要があるかと思います。どこでも営業で数億売っているひとが偉いのは当たり前。これがないと、容易につぶされると思います。

UXグロースハックを成功させるには、顧客の重要な瞬間(モーメント)を捉えることが重要

 

宮坂氏 :そういうわけで、国内企業へのメッセージとしてまとめると、トップダウンで大きいことはできない。まずUXはすでにある顧客接点の効果を最大化させるグロースハックからはじめましょうということですね。既存の顧客接点の改善では、メールのタイトルを変えるだけでも売り上げや、MAUが上がるケースもあります。UXグロースハックのアプローチにより、それがどう売り上げに寄与したか、その連鎖を証明することが、組織に理解を浸透させる上で大切ではないでしょうか。

UXグロースハックをやるときの道具立てとして、多くの企業はデータを集めるDMPや、データを可視化するBIなどの分析ツール、さらにMAABテストなど打ち手を届ける施策ツールを持っている事が多いですが、これらを使いこなせているか?と問うと、NOと答える企業がほとんど。講じる打ち手は個のマーケッターの経験にゆだねられていることが多く、企画立案をサポートし、事業をグロースさせていくツールが必要だと感じています。

そんな中、ビービットでは顧客の行動の中から、重要な瞬間(モーメント)を捉えて可視化するツール、「ユーザグラム」をリリースしています。データを顧客志向で役立てるには、なぜお客さんが怒っているのか、喜んでいるのか、顧客の喜怒哀楽、揺らぎを捉えるのが重要。やみくもにABテストを繰り返すのではなく、顧客の困りごとを発見して解決する、UXグロースハックはその積み重ねだと考えています。こういったツールを活用して、社内をサポートし、仲間を作り、ぜひグロースハック的なアプローチを育ててみてください。UXグロースハックをやる上で常に意識しないといけないのは、経営陣が気になる指標との紐づきです。ボトムアップからのトップダウンは長期戦ですが、あなたの行動が組織を変える重要なカギとなります。

 

 

<取材後記> 

企業のデジタルトランスフォーメーションが急激に進み、あらゆるデータが取得できるようになった今、
「データをどう使うか」が、多くの企業に共通する課題だと感じます。
 
顧客体験を向上させる上で、データの質と量が求められるなか、日本では、平安保険のように顧客データを自社で集められる企業は多くありません。適切なタイミングとコンテンツでコミュニケーションを改善するために、自社データとあわせ、外部データをうまく活用していく必要性を感じました。
 

オールアバウトでは、月間2500万人の自社のユーザーデータと、2018年5月に資本業務提携をしたNTTドコモのデータ(※)、さらに提携メディアや企業のデータを掛け合わせ運用する、コンテンツマーケティングを提供しています。 以下の資料では、メディアデータを活用した顧客理解、コンテンツマーケティングの事例をご紹介しています。

 

※NTTドコモがお客様から同意を得た範囲に限ります

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